新卒でつまずくと、その後の人生に何が起きるのか――就職氷河期世代の“見えにくい後遺症”
就職氷河期について話すと、
「もう20年以上前のことですよね」
と言われることがあります。
確かに、就職活動そのものは昔の出来事です。
でも、そのときのつまずきが、その後の人生にどんな影響を残すのか。
そこまで考えると、就職氷河期は「昔の話」だけではありません。
厚生労働省も、雇用環境が厳しい時期に就職活動を行い、現在もさまざまな課題に直面している人への支援を続けています。現在は就職氷河期世代だけでなく、中高年層への支援へと対象を広げています。
では、20代のころの就職のつまずきは、具体的にどこに残るのでしょうか。
できるだけ難しい言葉を使わず、一つずつ見ていきます。
最初に残るのは「職歴」です
学校を卒業して正社員になる。
仕事を教えてもらう。
数年かけて経験を積む。
少しずつ責任のある仕事を任される。
こうした流れは、その後の転職でも「経験」として評価されます。
ところが、新卒時に正社員になれなかった場合、この最初の階段に乗れないことがあります。
働いていなかったわけではありません。
派遣、契約社員、アルバイトなどで働いていた人もたくさんいます。
それでも転職の場面では、
「正社員経験はありますか」
「実務経験は何年ありますか」
と聞かれることがあります。
そこで、最初のつまずきが次の就職にも影響してしまう。
国がかつて、正社員経験が少ない人や非正規雇用の人を正社員として採用した企業に助成する制度を設けていたことからも、こうしたキャリア上の不利が政策課題として認識されていたことが分かります。
つまり、
「最初の就職がうまくいかなかった」という一度の出来事が、次の入口まで狭くしてしまうことがある。
これが一つ目の影響です。
次に残るのが「収入」です
正社員として働き続けると、一般には勤続年数や経験に応じて昇給する機会があります。
一方で、短期契約や非正規雇用を繰り返していると、
昇給しにくい。
賞与がない。
退職金がない。
福利厚生が少ない。
といったこともあります。
もちろん、すべての正社員が高収入なわけではありません。
すべての非正規雇用が低収入というわけでもありません。
それでも、若いころの雇用の不安定さが長く続けば、年単位では小さな差でも、10年、20年経つと大きな差になることがあります。
厚生労働白書でも、2019年時点の就職氷河期世代の中心層について、正規雇用だけでなく、非正規雇用や無業状態にある人が一定数いたことが示されています。
ここで問題になるのは、
その年の給料だけではありません。
次につながってきます。
収入の差は「貯金」に残る
毎月の収入が少なければ、
「もっと貯金しておけばよかった」
と思っても、そもそも貯める余裕が少なかった人もいます。
家賃を払う。
食費を払う。
医療費を払う。
仕事へ行くための交通費を払う。
生活するだけで精いっぱいなら、
「老後のために毎月5万円貯めましょう」
と言われても現実的ではありません。
そして40代、50代になったころ、
老後資金。
住宅。
親の介護。
自分の病気。
こうした問題が急に現実味を帯びてきます。
そのとき初めて、
20代、30代のころに十分な収入を得られなかった影響が、現在の貯蓄額として見えてくる。
これは本人の金銭感覚だけでは説明できない場合があります。
「年金」にも影響することがある
働き方の違いは、将来受け取る年金にも関係します。
厚生年金に長く加入して働いた人と、加入期間が短い人では、将来の年金額に差が出る可能性があります。
また、収入が低かった期間が長ければ、
「老後に備えて自分で資産を作る」
ことも難しくなります。
つまり、
20代の雇用
↓
30代、40代の収入
↓
貯金
↓
50代から考える老後
と、一本につながっています。
だから就職氷河期の問題は、
「就職できたか、できなかったか」だけでは終わらない
のです。
住まいにも影響する
安定した収入がないと、住居についても選択肢が狭くなることがあります。
住宅ローン。
賃貸契約。
引っ越し。
保証人。
老後の住まい。
こうした場面では、安定した収入や貯蓄が求められることがあります。
若いころには、
「今住める場所があればいい」
と思っていても、
年齢を重ねるにつれて、
「この先もここに住めるだろうか」
「一人で高齢になったら借りられるだろうか」
という問題に変わっていきます。
これも、最初から住居の問題だったわけではありません。
雇用の不安定さが、時間をかけて住まいの問題へ移っていく。
そんなことがあります。
家族形成にも影響した人がいる
ここは慎重に考えたいところです。
結婚しない人生もあります。
子どもを持たない人生もあります。
それ自体を「問題」にする必要はありません。
ただ、
「結婚したくなかった」
のではなく、
「自分の収入では家庭を持つことが怖かった」
「先の生活が見えなかった」
という人もいます。
家族を作るかどうかは個人の自由です。
でも、もし経済的不安によって、本当は望んでいた選択を諦めた人がいるなら、それも就職の影響の一つとして考える必要があります。
大切なのは、
結婚したか、していないかを評価することではなく、人生の選択肢を十分に持てたかどうか
だと思います。
心にも残ることがある
そして、数字には表れにくいけれど、私はここがとても大切だと思っています。
就職活動で何十社も落ちる。
やっと入った会社で、
「代わりはいくらでもいる」
という扱いを受ける。
契約が切られる。
仕事を変えるたびに、
「また続かなかった」
と思う。
こうした経験が続けば、
「私は社会に必要とされていないのかな」
と思ってしまう人もいるでしょう。
本当は景気や雇用環境の影響が大きかったとしても、
本人の中には、
「自分がダメだった」
という記憶として残ることがあります。
これが厄介です。
仕事の状況が改善した後も、その感覚だけが残ることがあります。
新しい仕事に応募するとき。
新しいことを始めるとき。
「どうせ私には無理」
という気持ちが先に出る。
これは履歴書には書かれない、いわば見えにくい後遺症です。
一つではなく、いくつも重なることがある
就職氷河期世代の問題を考えるとき、
「正社員になれなかった」
だけを見ると全体が見えにくくなります。
実際には、
正社員になれなかった
↓
職歴が積みにくかった
↓
次の転職も難しくなった
↓
収入が上がりにくかった
↓
貯金しにくかった
↓
住まいや老後が不安になった
↓
自信を失った
というように、いくつもの問題がつながっていることがあります。
政府の就職氷河期世代支援も、安定した職への就職だけでなく、社会参加、生活上の困りごと、家計改善、学び直しなど幅広い支援を案内しています。
これは逆にいえば、
問題が仕事だけではない
ということでもあります。
だから「正社員にすれば解決」でもない
ここも重要です。
40代、50代になった人に、
「じゃあ正社員になればいい」
と言って終わるのも違うと思います。
長時間労働が難しい人もいます。
病気や障害がある人もいます。
介護をしている人もいます。
長く仕事から離れていた人もいます。
今の働き方が本人に合っている場合もあります。
だから目標は、
全員を同じ働き方に戻すことではありません。
その人が、
今より少し安定する。
収入が少し増える。
働く時間を調整する。
制度を利用する。
生活費を下げる。
相談先を作る。
こうしたことを組み合わせていく。
国も現在、就職氷河期世代を含む中高年層について、一人ひとりの状況に応じた支援を掲げています。
では、40代・50代になった今、何をすればいい?
ここまで読むと、
「もう手遅れなのでは」
と思う人もいるかもしれません。
でも私は、そうは思いません。
失った20年を取り戻すことはできません。
でも、
これからの20年を少し変えることはできます。
まず必要なのは、
「全部立て直す」
ことではありません。
今一番困っているところを探します。
仕事なのか。
収入なのか。
住まいなのか。
心身の問題なのか。
老後なのか。
そして、その一つを小さくします。
たとえば仕事なら、
「転職する」
ではなく、
「ハローワークの中高年向け窓口を調べる」
からでもいい。
お金なら、
「老後資金を作る」
ではなく、
「毎月最低いくらあれば暮らせるか計算する」
からでもいい。
それが、人生を組み直すということだと思っています。
過去を知るのは、自分を責め続けないため
就職氷河期について調べることは、
「昔はひどかった」
と言い続けるためだけではありません。
過去に何があったのかを知ることで、
自分の人生を少し正確に見るため
でもあります。
自分で選んだこと。
社会に左右されたこと。
運が悪かったこと。
今から変えられること。
それを一つずつ分ける。
「全部私が悪かった」
でもなく、
「全部社会が悪かった」
でもない。
その間に、本当の人生があります。
まとめ|就職氷河期の影響は、時間をかけて別の形に変わっていく
新卒時のつまずきは、
その年だけで終わらないことがあります。
職歴。
収入。
貯金。
年金。
住まい。
家族形成。
そして、自分自身への評価。
時間が経つにつれて、最初とは違う形で現れることがあります。
だから国も、就職氷河期世代を含む中高年層への雇用支援だけでなく、社会参加や生活面を含めた支援を続けています。2025年には政府の関係閣僚会議も設置され、2026年4月には新たな就職氷河期世代等支援プログラムが決定されています。
でも、ここで終わりではありません。
私たちが次に考えたいのは、
「では、今から何を組み直せるのか?」
です。
次の記事では、
「40代・50代になった就職氷河期世代が、今からできること7つ」
として、
仕事、家計、制度、住まい、老後、支援、人とのつながりまで、具体的な行動に落とし込んでいきたいと思います。
過去をなかったことにはしない。
でも、これからまで諦めない。
これからを、わたしから。