実家や家族を頼れない40代・50代は、どう備える?――ひとりで抱えない生活設計

「もし、働けなくなったらどうしよう」

「病気になったとき、誰に頼ればいいんだろう」

「この先、一人で年を取っていけるのかな」

40代、50代になると、そんなことを考える機会が少しずつ増えてきます。

若いころなら、

「そのときになったら何とかなる」

と思えていたことも、親も自分も年齢を重ねるにつれて、急に現実的な問題に見えてきます。

そして世の中の生活設計には、ときどき、

「困ったら家族を頼ればいい」

という前提があります。

仕事を失ったら実家へ帰る。

入院したら家族に来てもらう。

お金に困ったら親に相談する。

高齢になったら配偶者や子どもがいる。

でも、すべての人がそうできるわけではありません。

実家との関係。

親の高齢化。

住んでいる場所。

経済的な事情。

病気や障害。

家族それぞれの生活。

いろいろな理由で、

「実家がある」ことと「実家を頼れる」ことは同じではありません。

結婚しているか、子どもがいるかだけでも決まりません。

では、家族を頼れない人は、全部一人で背負わなければならないのでしょうか。

私は、そうではないと思っています。

必要なのは、

「一人で生きられる人になること」ではなく、「一人で全部抱えなくても暮らせる仕組みを作ること」。

今回は、40代・50代から少しずつ準備しておきたい「家族だけに頼らない生活設計」について考えます。

「家族を頼れない」を、まず悪いことにしない

最初に伝えたいのは、

家族を頼れないことを、自分の失敗のように考えなくてもいいということです。

家族との関係は、人それぞれです。

近くに住んでいても頼れないことがあります。

仲が悪くなくても、親が高齢で逆に支える側になっていることもあります。

遠方に住んでいることもあります。

家族自身に病気や生活上の事情がある場合もあります。

そして、そもそも家族が少ない人もいます。

だから、

「家族が助けてくれるはず」を生活設計の唯一の前提にしない。

これは悲観的な考えではありません。

むしろ、家族にも自分にも負担を集中させないための備えです。

まず考えたいのは「何が起きたら困る?」ということ

老後について考えると、

「老後資金はいくら必要?」

から始めたくなります。

でも、家族を頼れない場合は、お金だけでは足りません。

一度、こんな場面を想像してみます。

突然、仕事を休むことになった。

収入が減った。

家賃を払うのが難しくなった。

入院することになった。

役所の書類が理解できない。

体調が悪くて買い物へ行けない。

転職したいけれど、一人では整理できない。

高齢になって今の家に住み続けることが難しくなった。

こうして具体的にすると、

「一人になるのが怖い」

という大きな不安が、

仕事・お金・住まい・医療・手続き・日常生活

という小さな問題に分かれてきます。

問題を分けることができれば、それぞれに別の備えを作れます。

家族一人の代わりを探す必要はない

ここが、今回の記事で一番大切なところです。

家族を頼れないからといって、

「家族の代わりになってくれる誰か」

を一人探す必要はありません。

むしろ、

役割を分散させます。

仕事のことは、ハローワークや就労支援。

生活のことは、自治体や自立相談支援機関。

医療のことは、医療機関。

お金のことは、家計相談や公的な相談窓口。

福祉サービスについては、自治体や相談支援機関。

高齢になってからの介護については、地域包括支援センター。

一人の人に、

「仕事も、お金も、病気も、老後も、全部助けて」

と頼む必要はありません。

それぞれの専門家や制度に、少しずつ助けてもらう。

私はこれを、自分を中心にした「小さな支援チーム」を作るようなものだと思っています。

「生活に困ってから」ではなく、相談先だけでも知っておく

厚生労働省には「生活困窮者自立支援制度」という仕組みがあります。

名前を見ると、

「生活が完全に破綻してから利用する制度なのかな」

と思ってしまうかもしれません。

でも厚生労働省は、対象について「仕事や生活など、様々な困難により生活に困窮している方」と説明しています。

相談内容も、仕事が見つからない、働きたくても働けない、家賃が払えない、住む場所がない、社会に出ることに不安がある、といった幅広いものです。

そして相談者の状況に応じて、仕事、住まい、家計などの支援につなげます。

難しい制度名ですが、普通の言葉にすると、

「生活のどこから手をつければいいか分からないとき、一緒に整理してくれる入口」

の一つです。

大切なのは、困ってから制度名を必死に探すのではなく、

「こういう相談先がある」

と元気なうちに知っておくことです。

住まいは40代・50代から考えておきたい

家族を頼れない人にとって、特に重要なのが住まいです。

今の家に、この先も住めるのか。

収入が減った場合にも家賃を払えるか。

高齢になったときも暮らしやすい場所か。

病院やスーパーへ行けるか。

公共交通機関はあるか。

車を運転できなくなったらどうするか。

家賃が安いだけではなく、

「年を取っても生活できる場所か」

という視点が必要になります。

厚生労働省の生活困窮者自立支援制度には住まいに関する支援もあり、2025年4月からは住居確保給付金が拡充され、一定の要件を満たす場合には、家計改善のために家賃の安い住宅へ転居する際の費用を支援する仕組みも加わっています。

もちろん、収入や資産などの条件があり、自治体によって確認が必要です。

だからこそ、

「住めなくなってから考える」のではなく、「住み続けられるか」を今から考える。

これが大切です。

お金は「老後○千万円」より、生活を止めないお金から

家族を頼れない場合、ある程度の現金を持っておく意味は大きくなります。

でも、いきなり何千万円という老後資金を考える必要はありません。

まず知りたいのは、

自分が1か月生きるために最低いくら必要なのか。

家賃。

食費。

光熱費。

通信費。

医療費。

交通費。

保険。

最低限必要な日用品。

これを把握します。

そして、

1か月分。

3か月分。

6か月分。

というように、小さく生活防衛資金を作っていく。

家計を自分だけで整理するのが難しい場合には、生活困窮者自立支援制度の「家計改善支援事業」という仕組みもあります。

家計を「見える化」し、滞納や給付制度の利用、必要に応じた債務整理の相談先などにつなぐ支援です。

お金の相談というと、

「怒られるのでは」

「無駄遣いを責められるのでは」

と不安になる人もいるかもしれません。

でも本来の目的は、

生活が続く形へ家計を立て直すこと

です。

「判断や手続きが難しくなったとき」の制度もある

もう少し先のことも、知識として知っておいて損はありません。

年齢を重ねたり、障害などによって、福祉サービスの手続きや日常的なお金の管理を一人ですることが難しくなる場合があります。

そうした人のために「日常生活自立支援事業」という仕組みがあります。

厚生労働省によると、判断能力が十分ではない人を対象に、福祉サービスの利用援助などを行う制度で、市町村の社会福祉協議会などが窓口になります。

誰でも利用できる制度ではなく、対象条件があります。

でも重要なのは、

「将来、一人で全部できなくなったら終わり」ではない

ということです。

必要になったときに利用できる制度がある。

その存在を知っているだけでも、将来への見え方は少し変わります。

高齢期になったら「地域包括支援センター」という入口もある

もう一つ、将来のために覚えておきたい名前があります。

地域包括支援センターです。

厚生労働省によると、地域の高齢者について、総合相談、権利擁護、介護予防、地域の支援体制づくりなどを行う、市町村が設置する機関です。

2025年4月末時点で全国に5,487か所あり、支所を含めると7,374か所あります。

40代・50代の今すぐ自分自身が利用する場面ばかりではありません。

でも、

「高齢になったら、全部子どもに頼る」

以外にも、地域に相談の入口があることは覚えておきたいと思います。

「人とのつながり」も生活インフラの一つと考える

そして制度だけでは補えないものがあります。

人とのつながりです。

ここでいう「つながり」は、

親友をたくさん作りましょう、

という話ではありません。

ときどき連絡できる知人。

職場で少し話せる人。

近所で顔を知っている人。

通っている医療機関。

定期的に利用するサービス。

趣味のコミュニティ。

オンラインでつながっている人。

そうした細いつながりを複数持つことです。

国も孤独・孤立を個人だけの問題として扱っているわけではありません。

2024年には孤独・孤立対策推進法が施行され、政府全体で相談支援や地域のつながりを作る取り組みが進められています。

「一人で暮らしていること」と「孤立していること」は同じではありません。

逆に、家族と暮らしていても孤立することはあります。

大切なのは、

困ったときに外へつながる道が一本でも残っていること。

だと思います。

自分だけの「緊急時メモ」を作っておく

ここからは、今日からできることです。

スマートフォンでも紙でもいいので、一つ「もしものときメモ」を作ります。

書いておきたいのは、

かかりつけ医。

服用している薬。

緊急連絡先。

勤務先。

健康保険について。

自治体の相談窓口。

自立相談支援機関。

利用している福祉・医療サービス。

保険会社。

銀行など大切な契約先。

そして、

「困ったとき、最初にどこへ連絡するか」

です。

全部完璧に作らなくても構いません。

まず3つだけでもいい。

体調が悪いときや混乱しているときに、一から検索しなくて済むだけでも違います。

40代・50代は「まだ困っていないうちに備えられる時期」

40代・50代で老後を考えると、

「もう遅い」

と思ってしまうことがあります。

でも私は逆だと思っています。

今なら、

まだ働ける可能性があります。

住む場所を考える時間があります。

貯金を少しずつ作る時間があります。

制度を調べる時間があります。

人とのつながりを作る時間もあります。

何より、

自分は何が苦手で、何があると生活しやすいのか

を、20代のころより知っています。

だったら、その情報を使ってこれからの生活を設計してもいい。

まとめ|「家族を頼れない」を「一人で全部やる」にしない

家族を頼れないことと、

一人で生きなければならないことは違います。

仕事は仕事の支援へ。

お金は家計の支援へ。

住まいは住まいの支援へ。

医療は医療へ。

高齢期は地域の相談機関へ。

そして、細い人間関係もいくつか残しておく。

つまり、

一つの大きな支えではなく、小さな支えをいくつも作る。

私は、これが家族だけをセーフティネットにしない生活設計だと思っています。

全部を今日準備する必要はありません。

まず、

「もし今、急に困ったら私は誰に連絡する?」

これだけ考えてみてください。

答えがなければ、一つ探す。

一つ見つかったら、スマートフォンに登録する。

それで今日の準備は終わりです。

人生を一気に立て直す必要はありません。

困ったときの出口を、一つずつ増やしていく。

家族がいても、いなくても。

実家を頼れても、頼れなくても。

自分に合ったセーフティネットを、自分の周りに少しずつ作っていく。

それも、人生を組み直すということだと思います。

これからを、わたしから。