国はなぜ今も就職氷河期世代を支援しているのか――厚生労働省の資料から考える

「就職氷河期なんて、もうずいぶん昔の話でしょう」

そう思う人もいるかもしれません。

たしかに、就職氷河期と呼ばれる時代からは、もう20年以上が経っています。

当時20代だった人たちは40代、50代になりました。

それでも国は、今もこの世代への支援を続けています。

2025年度からは、それまでの「就職氷河期世代専門窓口」の対象年齢を広げ、**「中高年層(ミドルシニア)専門窓口」**へ名称を変更しました。さらに厚生労働省は2025年10月、従来の就職氷河期世代向け特設サイトを「中高年の活躍支援」サイトとしてリニューアルしています。 

つまり、支援が終わったわけではありません。

むしろ、

就職氷河期から始まった問題が、40代・50代の生活や働き方の問題として続いている。

そう考えたほうが、現在の政策を理解しやすいのではないでしょうか。

では、なぜなのでしょう。

厚生労働省が公開している資料を、少し普通の言葉に置き換えながら考えてみたいと思います。


そもそも「就職氷河期世代」とは誰なのか

厚生労働省の現在の特設サイトでは、バブル崩壊後の厳しい雇用環境のなか、1993年ごろから2004年ごろに就職活動をしていた人たちを就職氷河期世代と説明しています。 

「景気が悪かった時代」と聞くと、

「仕事が少し見つかりにくかったくらいでは?」

と思うかもしれません。

けれど、問題はそんなに単純ではありません。

学校を卒業して最初の仕事を探す時期に、

「正社員として働きたくても、その入口自体が非常に狭かった」

人たちが大勢いました。

ここが大切です。


厚生労働省の資料には「1,637万人」という数字が出てくる

2020年版の厚生労働白書には、2019年時点で就職氷河期世代の中心層だった35~44歳、1,637万人について、雇用形態などを調べた資料があります。 

図を見ると、正規雇用の職員・従業員が891万人である一方、非正規雇用の職員・従業員は359万人、非労働力人口は204万人などとなっています。 

もちろん、

「非正規雇用=不幸」

ではありません。

自分からその働き方を選んでいる人もいます。

家庭の事情や体調などによって、短時間勤務のほうが生活しやすい人もいます。

だから、数字だけを見て一人ひとりの人生を決めつけることはできません。

それでも国が問題にしてきたのは、

正社員として働きたいのに、その機会を得られなかった人。

そして、

長期間仕事から離れ、再び働くためのきっかけをつかめない人。

さらに、

社会とのつながりそのものを失ってしまった人。

などが存在していることです。

現在の厚生労働省も、支援対象として「不本意に不安定な仕事に就いている人」「無業状態で就職に悩んでいる人」「ひきこもり状態など社会参加への支援が必要な人」などを挙げています。 

つまり国自身も、

就職氷河期の問題は、昔の就職活動だけで完結していない

と認識しているのです。


「選ばなければ仕事はあった」だけでは説明できない

就職氷河期について話すと、

「選ばなければ仕事はあった」

「みんな大変だった」

「努力して正社員になった人だっている」

と言われることがあります。

もちろん、それも一人ひとりの経験としては事実でしょう。

厳しい環境のなかでも就職できた人はいます。

転職を重ねながらキャリアを築いた人もいます。

だから、

「氷河期世代は全員被害者だった」

という話にする必要もないと私は思っています。

でも逆に、

就職できなかった人をすべて本人の努力不足として片づけることもできません。

なぜなら現在も厚生労働省は、就職氷河期世代について、厳しい雇用環境の時期に就職活動を行い、今なお不安定な仕事や無業などの課題に直面する人がいることを前提に支援を続けているからです。 

国が何年も支援策を用意しているという事実そのものが、

「本人がもっと頑張ればよかった」だけでは説明できない問題だった

ことを示しているように、私は感じます。


最初につまずくと、その後まで影響することがある

20代で正社員になれなかった。

非正規雇用からスタートした。

短期間の仕事を転々とした。

職歴に空白ができた。

すると30代になって転職しようとしたとき、

「正社員経験は?」

「これまで何をしていましたか?」

と聞かれます。

そして年齢が上がれば、さらに再スタートが難しくなる場合があります。

最初は、

「不況で就職できなかった」

だったはずなのに、

10年、20年経つうちに、

「十分な職歴がないから就職できない」

という別の問題へ変わってしまう。

厚生労働省が2025年4月から設けている「中高年層安定雇用支援コース」も、就職の機会を逃したことなどによって十分なキャリア形成ができず、正規雇用への就職が困難になっている35歳以上60歳未満の人を対象としています。条件を満たす人を正規雇用した事業主を助成する制度です。 

難しい制度名ですが、普通の言葉にすれば、

「過去に十分なキャリアを作る機会を得られなかった人が、年齢を重ねてから再挑戦するとき、その入口を企業側にも作ってもらおう」

という仕組みの一つです。

ここは、とても重要だと思います。


支援は「本人」だけではなく「企業側」にも行われている

現在の支援策を見ると、ハローワークで相談に乗るだけではありません。

企業側にも働きかけています。

たとえば厚生労働省は、一定の条件を満たす中高年層を正社員として雇用した企業への助成制度のほか、試行雇用を支えるトライアル雇用助成金などを案内しています。 

これは見方を変えると、

「本人だけを変えれば解決する」

という政策ではないということです。

企業側にも、

もう一度入口を作ってください。

と働きかけている。

ここからも、問題の一部が労働市場や採用の仕組みにあることが見えてきます。


2025年度から「就職氷河期」だけではなくなった

そして現在、政策は少し変化しています。

2025年度以降、就職氷河期世代だけを切り取るのではなく、対象を広げた中高年層(ミドルシニア)への支援へ移行しています。 

これは、

「氷河期問題が解決したから支援終了」

という意味ではありません。

厚生労働省自身が、就職氷河期世代が50代半ばに差しかかっていることを踏まえ、中高年層にも支援の間口を広げたと説明しています。 

つまり問題の名前が、

「若者の就職問題」

から、

「中高年期の雇用・生活・社会参加の問題」

へ変わりつつあるのだと思います。


実際に、今も専門窓口から就職している人がいる

そしてこれは、過去の制度の話だけでもありません。

厚生労働省によれば、中高年層(ミドルシニア)専門窓口を利用して、2025年度中に21,034人が正社員として就職しています。 

2万人という数字だけを見てもピンとこないかもしれません。

でも、その一人ひとりに、

履歴書を書いた日があり、

面接へ向かった日があり、

「もう年齢的に無理なのではないか」と思った日があったのだと思います。

その人たちが40代、50代からもう一度働き方を組み直している。

そう考えると、この数字の見え方は少し変わります。


それでも、制度があるだけでは届かない人もいる

一方で私は、

「国が支援している。だから大丈夫」

とも思いません。

制度があっても、その存在を知らなければ使えません。

知っていても、

窓口へ行くこと自体が難しい人もいます。

長く仕事で傷ついてきた人。

人と話すことに強い不安がある人。

病気や障害を抱えている人。

介護をしている人。

家族を頼れない人。

地方に暮らしていて、利用できる支援そのものが少ない人。

そして、いくつもの事情を同時に抱えている人。

「仕事を探しましょう」

だけでは解決できない人生があります。

だからこそ「わたしから。」では、制度を紹介するときにも、

「制度があります」で終わらせず、「その制度を現実の生活の中でどう使えるのか」まで考えたいと思っています。


過去を証明するためではなく、これからを考えるために数字を見る

就職氷河期について調べていると、いろいろな数字が出てきます。

でも私は、

「私たちはこんなに不幸だった」

と証明するためだけに数字を使いたいわけではありません。

知りたいのは、

なぜ、あのときあんなに苦しかったのか。

そして、

その影響が今も残っているなら、これから何を組み直せるのか。

ということです。

社会の問題だった部分と、自分で変えられる部分。

この二つを分けて考えることが、とても大切なのではないでしょうか。

過去の景気を、私たちは変えられません。

20代をやり直すこともできません。

でも、

今使える制度を調べる。

働き方を変える。

生活費を見直す。

社会保障を知る。

小さく学び直す。

相談できる場所を一つ作る。

そして、「正社員になる」だけを人生再建の唯一の正解にしない。

40代、50代からできることは、まだあります。


「これからを、わたしから。」

国が今も就職氷河期世代を支援している理由。

厚生労働省の資料を読んで私なりに普通の言葉へ置き換えるなら、

若いころに十分な機会を得られなかった影響が、その後の人生にも残ることがあるから。

なのだと思います。

だから私はもう、

「もっと頑張っていれば違ったのかな」

という問いだけを、自分に向け続けなくてもいいと思っています。

必要なのは過去の自分を裁くことではなく、

今いる場所から、これからの暮らしをどう作るか。

仕事だけではありません。

お金。

住まい。

制度。

人とのつながり。

心と身体。

老後。

それらを一つずつ確認して、自分に必要なものを組み合わせていく。

人生は、20代で決まるものではありません。

うまくいかなかったところがあるなら、

40代からでも、50代からでも、

組み直していい。

大きな再出発でなくてもいいのです。

今日は一つ制度を知る。

明日は相談先を一つ調べる。

そんな小さなところからでもいい。

これからを、わたしから。

私は、この言葉をそんな意味で使っていきたいと思っています。


参考にした主な一次資料: 厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」掲載の就職氷河期世代の雇用形態資料、中高年層(ミドルシニア)専門窓口、中高年の活躍支援特設サイト、特定求職者雇用開発助成金(中高年層安定雇用支援コース)などを参照しました。制度は改正されることがあるため、利用を検討する場合は最新の厚生労働省・ハローワーク情報を確認してください。 

厚生労働省「中高年の活躍支援」⁠

厚生労働省「中高年層(ミドルシニア)専門窓口」⁠